瓦屋根の漆喰とは?主な劣化症状とメンテナンスの重要性を解説
2024/12/02
伝統的な瓦屋根は、耐用年数が50年以上と長いですが、瓦屋根に使われている漆喰は20年程度の耐用年数しかないため、定期的なメンテナンスが必要です。具体的には、漆喰の詰め直し工事を行います。
瓦屋根で漆喰が使われている場所や、漆喰の役割と重要性、瓦屋根のメンテナンス方法について解説します。
瓦屋根の漆喰とは?
瓦屋根には漆喰が使われている部分があります。瓦を葺いた部分の一番上には、棟と呼ばれる部分がありますが、棟の下の部分は瓦の形状からして、半月状の隙間ができてしまいます。
この部分を塞ぐために、漆喰が詰め込まれています。
漆喰が使われている瓦屋根とは?
屋根材なら何でも漆喰が使われているわけではありません。
漆喰が使われているのは、瓦の形状をした屋根です。
伝統的な粘土瓦(和瓦、釉薬瓦、陶器瓦)が代表的ですが、セメント瓦、モニエル瓦といった洋風の瓦でも、平面部が瓦の形状をしている場合は、天辺の部分に半月状の隙間が生じるため、漆喰が埋め込まれています。
瓦屋根の漆喰の役割
瓦屋根の漆喰はどのような役割を果たしているのか確認していきましょう。
棟の台土の流出を防ぐ
伝統的な瓦屋根の場合、棟の部分は、平面の瓦の部分よりも一段高くなっています。
この盛り上がった棟の部分は、台土と呼ばれる土を盛って作られています。
台土を持って棟瓦を積んだだけでは、棟の土台に位置する部分に半月状の隙間ができてしまいます。
この隙間の部分を面戸といいますが、面戸が空いたままでは、棟の台土が流出するおそれがあります。
そこで、面戸を漆喰で塞ぐことで、台土の流出を防いでいるわけです。
棟瓦が崩れることを防ぐ
伝統的な瓦屋根の場合、面戸の部分は、棟瓦の土台に相当します。
この部分に隙間が生じたままでは、棟瓦が安定せず、崩れてしまうおそれがあります。
そこで、面戸を漆喰で埋めることにより、棟瓦の土台を固めて、棟瓦が崩れることを防いでいます。
雨漏りを防ぐ
外壁と瓦屋根の取り合い部分がある場合は、その部分にも半月状の隙間が生じてしまいます。
そのままでは、横殴りの雨が降ったときに、その隙間から内部に雨水が染み込んでしまい、雨漏りを発生させてしまうおそれがあります。
そこで、隙間の部分を漆喰で埋めることにより、雨水が内部に流れ込むことを防いでいます。
小動物が入り込むことを防ぐ
半月状の隙間が空いた状態だと、ネズミやスズメのような小鳥は、その隙間から建物の内部に入ることができてしまいます。
こうした動物が入り込むと、屋根裏が動物の巣になってしまい、衛生面で問題が生じてしまいます。
そこで、漆喰で隙間を塞ぐことで、小動物が屋根裏等に入り込むことを防いでいるわけです。
美観を維持する
面戸が空いたままでは、瓦屋根の見た目が良くないですし、棟瓦の土台が安定していない状態になるため、ズレが生じやすく、真っ直ぐな棟瓦になりません。
そこで、漆喰で隙間を塞ぐことで、見た目を良くするとともに、真っ直ぐな棟瓦を作れるようにしています。
瓦屋根の漆喰の原料
瓦屋根の漆喰は、水酸化カルシウムを主な原料としています。一般的には、「消石灰」と呼ばれる粉のことです。
消石灰の他、砂などの「骨材」、繊維状の「すさ」、接着剤の「のり」と水を練り合わせて、漆喰を作ります。
こうして作られた漆喰には、防水性、耐火性、調湿作用などがあります。
漆喰というと、現在では、内装の壁を仕上げる際の漆喰壁のイメージがあり、外装に使えるのかと疑問を抱かれるかもしれません。
しかし、漆喰は、伝統的に外壁の仕上げ材としても使われています。代表的なのが土蔵で、白い部分を漆喰で仕上げています。
瓦屋根の漆喰の耐用年数
伝統的な粘土瓦(和瓦、釉薬瓦、陶器瓦)の場合、耐用年数が50年以上あるため、屋根の手入れは必要ないとか、事実上メンテナンスフリーというイメージがあるかもしれません。
しかし、50年以上の耐用年数を誇るのは、粘土瓦自体であって、その他の建材は、それ程の耐用年数はありません。
例えば、瓦の下に敷かれる防水シートは、20年程度の耐用年数しかありません。
漆喰も同じく、耐用年数は20年ほどです。
20年も経過すると、漆喰が劣化して剥がれることもあるため、メンテナンスを行う必要があります。
瓦屋根の漆喰の劣化症状
瓦屋根の漆喰は、施工した直後は、白く美しいですが、20年程度も経過すると、様々な劣化症状が現れます。
瓦屋根を長く維持し、雨漏りから建物を守るためには、漆喰の劣化が確認された段階で早めにメンテナンスを行うことが大切です。
漆喰が黒ずんでいる
地上から屋根を見上げても漆喰は、白い色をしているため目立ちます。
ところが、漆喰が劣化すると、白さが失われて黒ずんでくることがあります。
漆喰の黒ずみは、カビや苔が付着したことが原因の場合が多いです。
カビや苔が漆喰に付着してしまうと、見た目が悪いだけでなく、カビや苔が漆喰に根を張るようになり、漆喰の劣化を早めてしまいます。
漆喰は強アルカリ性なので、カビや苔が生えにくいですが、酸性雨を浴びたり、歳月が経つにつれて、中性化が進んでいきます。中性化してしまうと、カビや苔がこびりつきやすくなってしまいます。
そのため、漆喰が黒ずんでいるのが確認できる場合は、漆喰が中性化しており、劣化が進行している証拠なので、漆喰の詰め直し工事を行うべきタイミングになります。
漆喰にひび割れが生じている場合
漆喰をよく観察すると、ひび割れが生じていることがあります。
ひび割れは、漆喰の初期段階の劣化症状です。
棟部分の漆喰のひび割れだと、双眼鏡などを使わないと見つけることが難しいと思いますが、この段階で気づいて、屋根工事業者に修理を依頼すれば、漆喰の詰め直し工事だけで対応できる可能性が高いです。
つまり、瓦屋根のメンテナンス費用を最小限に抑えることができます。
漆喰のひび割れは、経年劣化によって生じる場合のほか、大型の台風や大きな地震が原因で生じることもあります。
自然災害の後は、瓦屋根の状態を確認し、異常が確認されたら、早めに修理することが大切です。
漆喰が剥がれ落ちている
漆喰のひび割れが進むと、ひび割れた漆喰が剥がれることがあります。
漆喰が剥がれると、瓦に漆喰の欠片が乗っかっていたり、雨樋や屋根の下の敷地に落ちていることがあるため、気づきやすいと思います。
漆喰の剥離が確認された場合は、できる限り早く、屋根工事業者に修理を依頼しましょう。
漆喰が剥離しているのに放置した場合は、屋根だけでなく建物内部にも深刻な被害が生じてしまいます。
漆喰が剥がれた後の劣化の進行状況
漆喰が剥離すると隙間が生じます。隙間が生じた場合にまっさきに問題となるのが雨水の侵入です。
雨水が侵入しても、防水シートが雨漏りを防ぎますが、20年近く経っている場合は、防水シートも劣化していて、雨漏りを防げないことがあります。
瓦が割れているわけでもないのに室内で雨漏りが生じている場合は、漆喰が剥離したことが原因の可能性があります。
棟瓦の面戸の漆喰が剥離した場合は、棟瓦の土台が崩れたのと同じですから、棟瓦の歪みが生じることがあります。
特に、穴が空いた面戸から、台土が流出している場合は、棟瓦が崩れてしまうこともあります。
この場合は、漆喰の詰め直し工事だけでは対応できず、棟の積み直しや積み替えの工事が必要です。
室内に雨漏りが生じている場合は、防水シートや下地の野地板も交換が必要になり、瓦自体の葺き直しや葺き替え工事といった、大掛かりな屋根工事が必要になってしまいます。
瓦屋根の漆喰のメンテナンス方法
瓦屋根の漆喰だけのメンテナンス方法は、次の2つです。
✅漆喰の詰め直し工事
✅漆喰の詰め増し工事
漆喰の詰め直し工事は、劣化した漆喰を撤去して、新しい漆喰を詰める工事です。
漆喰の詰め増し工事は、古い漆喰の上に新しい漆喰を詰め増す工事です。
漆喰の詰め増しをした場合は、古い漆喰が劣化して剥がれると、新しい漆喰も一緒に剥がれてしまうため、おすすめできません。
そのため、漆喰のメンテナンスは、漆喰の詰め直し工事を行うのが一般的です。
漆喰の詰め直し工事の工程
漆喰の詰め直し工事は、劣化した漆喰を取り除き、新しい漆喰を詰める工事です。その工程は、次のとおりです。
古い漆喰を取り除く
漆喰の詰め直し工事を行う時は、剥離している漆喰だけでなく、すべての漆喰を詰め直すのが一般的です。
古い漆喰と新しい漆喰が混在していると見た目が悪いですし、古い漆喰がだめになるごとに工事していたら、余分にコストがかかってしまうためです。
漆喰は、手で取れるわけではありません。瓦用ハンマー(瓦槌、瓦屋槌)で叩いて割るようにして取り除きます。
誤って瓦を割ってしまわないように慎重に取り除きます。
下地調整
棟瓦の場合は、台土が足りているかどうか確認します。
面戸から台土が流出して、棟瓦がゆがんでいる場合は、棟瓦の葺き直し工事も行います。
また、瓦のずれもこの時点で直しておきます。
新しい漆喰を詰める
漆喰を練って、面戸に詰めていきます。
漆喰は、厚く詰めればよいというわけではなく、のし瓦よりはみ出ない程度にほどほどに詰めることが大切です。
瓦からはみ出るほどに詰めた場合は、漆喰が雨水を吸水しやすくなり、劣化も早まります。
漆喰の詰め直し工事の大まかな工程はこれだけです。漆喰の詰め直し工事だけで瓦のメンテナンスができれば、1日ですべての工事を終えることも可能です。
一方、瓦自体の葺き直し工事も必要な場合は、数日掛かることもありますし、工事費用も高額になります。
粘土瓦(和瓦、釉薬瓦、陶器瓦)の耐久性を十分に発揮するためにも、定期的に漆喰のメンテナンスを行うことが大切になるわけです。
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