瓦屋根工事の「葺き直し」とは?メリットとデメリットについて
2024/12/02
瓦屋根は、寿命が50年〜60年と長いのが特徴ですが、新築から20年〜30年も経過したら、メンテナンスが必要になります。
メンテナンスの際は、既存の瓦屋根をそのまま利用する「葺き直し」と呼ばれる工事を行うことも可能です。
瓦屋根の葺き直しとはどのような工事なのか、そのメリットとデメリットについても解説します。
瓦屋根の寿命は50年〜60年
現在では、屋根材は、様々なものがありますが、寿命の短いものがほとんどです。
例えば、現在主流のスレート屋根材は15年〜20年程度。
最近、流行りのガルバリウム鋼板の金属屋根でさえ、30年〜40年程度です。
それに対して、瓦屋根の寿命は50年〜60年とされており、新築時に瓦屋根を採用すれば、その家の取り壊しが必要になるまで、瓦屋根を使い続けることができると言っても過言ではありません。
瓦屋根はメンテナンスフリーではない
瓦屋根は、ほかの屋根材と比較しても極めて耐用年数が長いのは事実ですが、50年〜60年の間、メンテナンスフリーだと言うわけではありません。
瓦自体は50年〜60年は使えても、瓦屋根の下地はそれほどの耐久性はありませんし、漆喰や谷樋板金の耐用年数も、10年〜20年程度しかありません。
つまり、新築時から20年程度経過している場合は、メンテナンスが必要になることは、ほかの屋根材と同じです。
瓦屋根の葺き直しとは
瓦屋根の葺き直しとは、文字通り、瓦をいったん取り外して、もう一度きれいに並べなおすことです。
瓦屋根は小さな瓦を隙間なく並べる形で構成されています。
瓦は、普通の強風や地震程度でずれることはありませんが、大きな台風が直撃したり、巨大地震に見舞われた場合は、ずれが発生してしまうことがあります。
瓦にずれが生じたままでは雨漏りの原因となってしまうため、瓦屋根の葺き直しが必要になります。
また、台風や地震といった自然災害の直撃を免れていた場合でも、20〜30年程度の歳月が経過すると下地などが痛み、それに伴い、瓦が少しずつずれてしまうこともあります。
このような場合も、ズレがひどくならないうちに、瓦屋根の葺き直しを検討すべきです。
瓦屋根の葺き直し工事の内容
瓦屋根の葺き直し工事では具体的にどのようなことを行うのか紹介します。
瓦の取り外し
瓦屋根の葺き直しは、既存の瓦を再利用する形で工事を進めます。
そのため、工事の初めに、既存の瓦を一枚一枚、丁寧に取り外すことから始めます。
もちろん、割れや欠けが生じている瓦は再利用が難しいため、新しい瓦と交換しますが、瓦は伝統的な屋根材で古くから変わっていないだけに古い瓦とほぼ同じものを調達しやすいという特徴があります。
下地の作り直し
瓦を取り外した後は、古い防水シート等を撤去します。防水シートの下には、瓦屋根の下地があります。
瓦屋根の下地は古いものだと、バラ板と呼ばれる細長い板材が使われていることがあります。
バラ板がよいと言う職人さんもいますが、バラ板だと一枚一枚の強度が弱く、職人が乗っただけで踏み抜いてしまう恐れもあります。
そこで、バラ板が使われている場合は、その上に構造用合板を打ち付けることにより、屋根の構造をより強固にするのが一般的です。
もちろん、バラ板が全面的に腐っている場合はバラ板も撤去し、必要に応じて、屋根の骨組みである垂木を足したり、新たに打ち直すと言った大掛かりな大工工事が必要になることもあります。
防水シート(ルーフィング)の張り直し
防水シート(ルーフィング)は、瓦の隙間から雨水がしみ込んでしまった場合に、下地までしみ込むことを防ぐ役割を担っています。
その耐用年数は、20年〜30年程度とされているため、瓦屋根の葺き直し工事を行った機会に交換するのが一般的です。
防水シートを交換することにより、屋根の防水性能がより高まります。
谷樋板金の交換
屋根と屋根の平面がぶつかり合って、谷ができる構造の屋根になっている場合は、その谷の部分には、谷樋板金が用いられています。
谷樋板金は、さびにくい金属が用いられていますが、20年以上も経過したものは、変色していたり、腐食により穴が開いていることがあります。
穴が開いてしまうと、雨漏りの原因になってしまうため、瓦屋根の葺き直し工事を行った機会に交換します。
棟の漆喰の詰め直し
棟瓦には漆喰と呼ばれる詰め物が埋められており、棟瓦の隙間から雨水がしみ込むことを防いでいます。
棟瓦の漆喰の寿命は、15年〜20年程度と言われているため、瓦屋根の葺き直し工事を行った機会に、詰め直しを行います。
ガイドライン工法による瓦の葺き直し
令和4年1月1日から瓦屋根の緊結方法が強化されました。
従来の工法では、瓦はすべて緊結する必要はなく、「軒、けらば」と呼ばれる端部から2枚までの瓦のみを「銅線、鉄線、くぎ等」で緊結すればよいとされていました。
また、棟瓦についてもすべて緊結する必要はなく、1枚おきに緊結するだけでよいという扱いになっていました。
しかし、従来の工法だと、最近の記録的な暴風や台風、さらに大地震に見舞われた場合、緊結していない部分を中心に瓦が崩れてしまう被害が生じる恐れがあります。
そこで、瓦の緊結方法に関する基準が強化されました。
新しい基準では、「軒、けらば」だけでなく、「すべての瓦」が緊結の対象になりました。棟瓦も、1枚おきではなくすべて緊結しなければなりません。
また、緊結方法も、従来は「銅線、鉄線、くぎ等」でしたが、銅線、鉄線での緊結は認められなくなります。
「軒、けらば」は、3本のくぎ等(くぎ又はねじ)で緊結
「棟瓦」は、ねじで緊結
「平部」は、1本または2本のくぎ等(くぎ又はねじ)で緊結
といった緊結方法に改められました。
さらに、屋根ふき材や緊結金物にさび止め・防腐措置を講じることにより耐久性を高めることも求められています。
令和4年1月1日以降に新築する屋根瓦の建物では新しい基準が適用されます。
一方、それ以前の古い家の瓦屋根について、下地まで含む全葺き替え等の大規模修繕を行う場合は、法令上は改正前の基準でもよいとされていますが、改正後の基準で葺き替えることが望ましいとされています。
古い家の瓦屋根の場合は、瓦が緊結されていない可能性もあります。
そのため、瓦屋根の葺き直し工事を行うことによって、台風や地震に強い屋根にバージョンアップすることができると言うことです。
瓦屋根の葺き直しのメリット
瓦屋根の葺き直し工事を行うことには次のようなメリットがあります。
瓦屋根を再利用できる
瓦屋根の葺き直し工事では、既存の瓦屋根を再利用します。そのため、瓦を処分することによる環境負荷をかけないというメリットがあります。
また、新しく屋根材を調達する必要がありませんし、また、処分費用も掛からない分、コストを抑えられる点もメリットです。
屋根の外観に大きな変化がない
屋根材を新しく変える場合は、事前に見本などで確認していても、実際に出来上がってみると、「思ったのと違っていた」と後悔することがあるかもしれません。
その点、瓦屋根の葺き直し工事では、瓦屋根の外観に大きな変化はないため、屋根材を変えて後悔することはありません。
瓦屋根の葺き直しのデメリット
瓦屋根のメンテナンスを葺き直し工事で済ませることには次のようなデメリットがあります。
同じ瓦を調達できるとは限らない
瓦は、昔から製造されている伝統的な屋根材で、形状も大きく変わっていません。
瓦屋根の葺き直し工事では、基本的には、既存の瓦屋根を再利用しますが、割れや欠けが生じているものについては交換が必要です。
この場合、新しく調達した瓦が、既存の瓦と全く同じであるとは限りません。
色が微妙に違っていることもありますし、同じものを調達したとしても、新品は鮮やかなのに既存の瓦は古ぼけていて、その違いがはっきりしていることもあります。
このような場合、職人がうまく工夫して、葺き直すのが一般的ですが、気になる方にとってはデメリットになります。
人件費は変わらないため損した気分になる
瓦屋根の葺き直しと葺き替えとで人件費に大きな差はありません。
むしろ、瓦屋根の葺き直しでは、既存の瓦を丁寧に取り外して保管する必要がある分、時間がかかってしまいますので、全体の人件費としては、瓦屋根の葺き直しの方がやや高くなる可能性があります。
瓦を取り外した後の工程は、瓦屋根の葺き直しと葺き替えとで大きな差はありません。
そのため、同じ人件費をかけるなら、葺き替えをして、新しい屋根材を入れた方がよいと思ってしまうこともあるかもしれません。
このように損した気分になってしまう方にとってはデメリットになります。
耐震性に大きな変化はない
瓦屋根は重いため、軽い屋根材に替えることで、耐震性を向上させましょうと言われることがあります。瓦屋根のリフォーム工事の目的の一つになることも多いです。
その点、瓦屋根の葺き直しの場合は、屋根自体は下地から交換することによって、一新することができますが、重さが大きく変わるわけではないため、耐震性向上には寄与しません。
家のリフォーム工事で耐震性を高めたいと思っている方にとってはデメリットになります。
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